やってみたい!というお問い合わせの中で、スペースバルーン用の保険に加入する方法を教えて欲しいというお問い合わせを多数いただきましたので記事に致しました。
順序立てて説明していきます。
そもそも保険とは
保険になぜ入るのか。それは、事故を起こさないためではありません。保険は事故が起こってからのお話です。事故が起こらないようにするのは実施者の義務です。保険は事故が起こった時に社会的な責任を果たすためのものです。
保険会社は事故が起こった場合、それによって生じた損害の金額を、加入者の代わりに被害者に支払います。
保険会社はどの程度の確率で事故が起こるのか、そしてどの程度の金額の損害が生まれるかを見積もることで、保険金額を決め、保険を用意します。
事故の可能性が高いほど保険料は高く、賠償額が大きいと予測されるものほど保険料は高くなります。
ですので、若者の自動車保険は事故率が高いので、保険料が高いのです。
スペースバルーン用の保険は作ってもらわないといけない
たくさんの人が自動車を運転し、たくさんの事故が発生しているので、自動車保険はどの程度の相場であるのかを保険会社がデータを持っています。なので、保険会社は保険を作ることができます。
では、スペースバルーン用の保険はどうでしょうか。
スペースバルーンの事故の可能性のデータは保険会社にはありませんね。
完全に未知です。何が起こるか分かりません。保険会社の立場に立ってみて下さい。安全だか、危険だか分からない。しかも、どの程度の損害が生まれるかも分からない。けれども、その被害を肩代わりしなくてはならない。あなたが保険会社ならそんな保険を作りますか? 作るはずありませんよね。
では、どうやって保険を作ってもらうのか。保険は自動車もスペースバルーンも同じです。
先にも述べた通り、保険会社はどの程度の確率で事故が起き、どの程度の金額の損害が生まれるかが分からば良いのです。
これさえ分かれば、自動車もスペースバルーンも同じです。
では何をすればわかるのか。実験です。実験して安全性や事故の可能性を見積もらなくてはなりません。当たり前のことですが、実験をしなくてはならないのは保険会社ではありません。実施する人です。
実験を繰り返すことで、事故の可能性や損害の大きさを測ることができるようになります。そのためのデータを保険会社に提出する必要があるのです。
スペースバルーン用の保険は完全にオーダーメイドです。装置を作る人、運用する人によって事故の可能性は全く異なりますので、実験データを元にオーダーメイドしてもらわなくてはなりません。
実験って具体的に何をするの?
実験はとても重要です。実験を繰り返すことで、安全性も高まっていくはずです。しかしながら、単に実験だけしても意味がありません。
保険を作ることを目的とする場合、
・実験の実施方法
・上空30,000mから落下させた場合を再現した証拠
・運用装置の危険性の数値的な評価
・実験における誤差を踏まえた最大の危険性
・安全性の根拠の客観的な証拠
・装置の具体的な形状
・装置の運用方法
・実験の実績と試行回数とその結果
など提示することで、どの程度の損害が起こるかを保険会社に伝えることができます。実際の打上げと同じ内容で評価しないと意味がないので、再現して実験してください。実際に30,000mまで飛ばさなくてもすべての試験は地上近辺で作ることができます。
事故の起こる確率も示さなくてはなりません。
・打上げの事故率とその論拠
・送電線にかかる確率
・線路や高速道路に落ちる確率
・車や電車にぶつかる確率
・民家に起こる確率
・飛行経路を外れる確率
などを論拠を元に提示できなくてはなりません。保険会社はスペースバルーンについては全く未知なので、こちらが示さなくてはならないのです。実施者も未知の事柄であったら、誰も示すことが出来ませんので、保険は作りようがないのです。
実験とか面倒だから保険を紹介してよ
私はバルーン用の保険を作り、それに加入しています。内容は、
対人 5億円
対物 1億円
訴訟費用 1000万円
まで補償される保険です。
「実験とか面倒だから、その保険屋さんを紹介してよ。」という要望もあるかもしれませんが、ここまで読んでいただければご理解いただけるとおもいますが、それは出来ないご相談なのです。
先に触れた通り、スペースバルーン用の保険は完全にオーダーメイドです。装置を作る人、運用する人によって事故の可能性も損害額も全く異なります。私の装置を運用するわけではありません。ご自身で作った装置を運用するので、個別に実験を行いその実験データを元にオーダーメイドしてもらわなくてはなりません。
保険に加入するためには、まずは実験なのです。
ちなみに、私が保険に加入した時には、これまで行ってきた数百回分の実験データをまとめた資料を提出しました。複数の保険会社が、恐らく日本で初であろう、スペースバルーン用の保険を作ってくれました。ですので、根拠を元にお願いすることで新しく作ってもらうことは可能なのです。
実験がとても重要
実験を繰り返すことで安全性が上がっていきます。安全性の向上は実施者の義務です。気球を安全に飛ばさなくてはならないというのは、国際条約でも決まっており、日本はこれを批准しています。ですので、安全な装置を作らなくてはならいのです。
それに、安全で事故を起こさないと信頼される装置を作り上げることにも大きなメリットがあります。それは保険料が安くなることです。
事故を起こさないためにもっとも必要なのは、実験です。保険はあくまで社会的な責任を果たすものであり、安全性を保障するものではありません。
日本は海外とは違います。安全に細心の注意を払わなくては誰かを傷付けてしまいます。はやる気持ちで事故を起こすと、巻き込まれた人も事故を起こした人も、そしてその家族や周りの人も、全員不幸になります。
安全を第一に、順序を追って挑戦してくださいね。
10件のコメント
大学のプロジェクトでスペースバルーンを検討しているのですが、このプロジェクトは大学生でも行うことができますでしょうか?
つるさま
はじめまして。
コメントありがとうございます。
プロジェクト自体は誰でも行うことが出来ます。ただ、安全性などはしっかりと担保して実施しないと大変なことになってしまいます。先日は首相官邸にドローンが落ちたニュースがありました。あのようなことになりかねませんので、十分に実験して、法律を守った上で実施する必要があります。
とっかかりの実験は私の作成していた初期の機体をご参考ください!
人の頭に落下することはないのでしょうか
もし激突しても
保険に入っておけばよいのでしょうか?
maruさま
コメントいただきありがとうございます。
ご質問へのご回答をいたします。
まず、人の頭に落下することはないのか。についてです。
あるか、ないか、で答えれば「ある」が答えです。
宝くじをたった1枚買って、3連続で当たる可能性はあるのか、と問われた場合、これも「ある」が回答になります。
北海道の道東地区で実施する場合に限り、この宝くじと同程度の確率になります。
3連続で宝くじが当たる心配が出来ればどんなに幸せかと思いますが、なかなか難しい話です。
どの程度の危険性があるかを見積もることが極めて重要です。
なお、頭に落下する可能性は、もらい事故に会う確率や、衝動的な殺人に合い惨殺される可能性より、数桁少ない確率です。
保険に入っておけばよい。についてのご回答です。
良い悪いを何を以ておっしゃっているか、はかりかねますが、私は良い悪いについてお話しておりません。
あくまで、「最低限の責任を果たすために入る必要がある」とお伝えしています。
事故を起こした場合、相手に相応の意思があれば、刑事事件となり、逮捕され前科がつきます。裁判所が必要に応じて刑や罰金を与えます。
与えた損害に対して、たとえば治療費等支払うのが社会に生きる人間としての責任です。
もし、保険に加入していなかった場合、ない袖はふれない、と逃げてしまったら、被害者は困ってしまいます。
被害者が生まれた場合の救済のために、保険は必要だとお伝えしているのです。
人間は生きているだけで、相当のリスクを周囲の人間に与えながら生きています。
車の運転や自転車の運転は最も分かりやすい例です。
無保険で車を運転する人はいません。
保険に入っていて、人を轢いてしまった場合を考えてください。
保険に入っているから、人を轢き放題という理論にはなりません。
轢いたら轢いたなりに、その責任を果たさなくてはなりません。
最低限の金銭に関してのみ、お金で被害者を救済してくれます。
保険とはそういうものです。
ご理解頂けますでしょうか。これからもよろしくお願いいたします。
札幌で宇宙ふうせん撮影をする予定等はありますか?
ゆあさま、コメントありがとうございます。
最近は装置が大きく重くなったため、また、新千歳空港との調整が難しくなったため、札幌では打上を行っておりません。
北海道では十勝などで打ち上げをしています。
来春の打ち上げ予定はありますか?
もしあれば是非子どもに近くで見せたいと思っておりました。
もしご予定があれば日程等はどこかHPに載ってますか?
ゆあさま、コメントいただきありがとうございます。
大変申し訳ありませんが、打上はクライアント様の仕事としてお受けしておりますので、見学等は行っておりません。
せっかくで申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。
そうですか。
出来れば自分でやれれば良かったのですが、いくら以前の物と比べ手頃な金額で出来るようになったとはいえ、個人で用意するには予算の確保が難しい状況でしたので、ダメ元で聞いてみました。
いつか自分でも出来れば良いなと思ってます。
またお忙しいとは思いますが、子ども向けのイベント等で何人かのグループで実費負担でも参加したいという方はたくさんいると思います。そういった子達の先生となるような事も実施していただけたら嬉しいです。
今後も岩谷さんのご活躍影ながら応援してます。お忙しい中、ご返信いただき、有難うございました。
ゆあさま、コメントいただきありがとうございます。
ロボットコンテストや鳥人間コンテストのような、風船宇宙コンテストが出来たらいいなとずっと思っておりました。
いつか形にできるよう進めていきます。
ご意見いただきありがとうございます。