学生さんへのお話をしていた時に、「この発明(風船宇宙撮影)をするにあたって必要な知識や役立った知識はなんですか? どんな勉強をすれば自分のしたいことが出来ますか?」と聞かれました。
「そんな大層な知識は必要ないよ~」とお話していましたが、書いてみると結構大層な気もしてきますが、私が風船宇宙撮影で役立った知識を列挙してみます。
どの知識も私が好きで身に着けたものばかりです。
ちなみに、私は勉強自体は大嫌いでした。高校生の頃は勉強が嫌いすぎて、偏差値が30もなかったです。
そんな私なので、大層な知識ではないんです。
物理学の知識
風船宇宙撮影の機体を作り上げるためには物理学は必須です。
物理の知識なしに機体を構築すると、極めて危険です。
落下時の制御も出来ませんし、落下速度の調整も出来ません。
また、姿勢の制御も出来ません。
世界中でSpaceballoonの打上が行われていますが、どれも安定した映像が撮影できないのは、物理学に基いた設計がなされていないためです。
ジャイロやスタビライザを積んでいる機体も作られていますが、空気のない空間でスタビライザが効かないのも当たり前ですし、ジャイロは根本的につけ方が間違っていたりします。
物理学の知識がないとお金をかけてもまともなものを作り上げることが出来ないのです。
物理学と言うと苦手意識を持っている人が極めて多い科目ですが、私は昔から物理学はかなり得意でした。
北海道大学の入学試験は10分程度で解き終わり、満点で通過しました。センター試験も10分程度で解き直しまで終わり、残りの試験時間が暇でしょうがなかったので、他の科目の問題を解いていました。
そこからさらに大学で工学部の機械科に入学し、さらなる物理学の知識を習得しました。
なので、私の作っている機体は他の誰の作った機体より揺れない安定したものになっているのです。
宇宙工学
大学では宇宙工学の研究室に在籍しました。
私は学士で卒業しているので大層な知識はありませんが、研究室で様々な宇宙開発に触れ、宇宙開発ではいかようにしなくてはならないかを知ることが出来たのはとても大きいです。
風船による宇宙撮影を行っている高度はせいぜい40km後半の成層圏です。
しかし、この成層圏の環境は宇宙ステーションや人工衛星の環境とほぼ差がありません。
なので、宇宙工学の常識がそのまま風船宇宙撮影に当てはめることができるのです。
振動工学
大学では機械科に所属していたので、機械を作るに当たって必要な様々な勉強をしました。
風船宇宙撮影の機体は大きなゴム風船に吊るされているだけなので、適当に作り上げると揺れて揺れてどうしようもない状態になってしまいます。
機械の設計において、振動を制御することは極めて重要です。
風船宇宙撮影でも大学で学んだ振動工学の知識がとても役に立ちました。
化学の知識
風船宇宙撮影の装置は、ある化学反応を制御することで、安定した映像の撮影を可能にしています。
そのため私の装置は、世界中だれも出来ない様々な映像を撮影することが出来るのです。
様々な機械を宇宙仕様に改造できるのも、すべて化学の知識があってこそ。
化学は昔から物理より得意な科目でした。
また、真冬の極限下にある北海道での打上を可能にするのも化学の知識です。
気象学の知識
気象学は地学に含まれる知識ですが、私はこれまで地学を履修したことはありませんでした。
子供のころからずっと空を見るのは好きで、一年中『空日記』を付けていました。
『空日記』とは、その日どんな種類の雲が出ていて、どんなふうに天気が変化したのかを綴った日記です。
気象学に纏わる事柄はこのくらいの事しかしてきませんでしたが、風船の打上を行うようになってから気象に関する知識を必要になり学びました。
風船は風まかせで飛んで行ってしまします。
気象に対する知識を深めることで、機体の回収率を高めることが出来るようになりました。
数学の知識
初日の出の撮影には数学の知識が必須でした。
当然のことですが、様々な科学の計算には数学の礎があってこそ可能になります。
材料科学の知識
風船宇宙撮影の素材は全てホームセンターや東急ハンズ・100円ショップで揃えています。
が、素材を選ぶためには、材料科学の知識が必須です。
素材の物性が分からなくては、空中分解してしまったり、GPSしか回収できないという悲しい結末になることもあるでしょう。
それではあまりにも情けないです。
素材の物性を知り、工学的に十分な強度であるかを検証した上で使用することで、安定した打上・回収を可能にしています。
プログラミングの知識
子供のころからプログラミングが好きで、簡単なものを作って遊んでいました。
そのお蔭でちょっとした機械の改造や、書き換えが可能になり、様々な宇宙仕様の機械を作り出すことが出来るようになりました。
このブログもプログラミングの知識で、自分自身でつくったもの。
情報発信をするときにもプログラミングの知識は必須です。
プログラミングなくして、風船宇宙撮影はここまで成長することは有り得なかったでしょう。
電子工学の知識
電子工作も好きな遊びでした。
機械の分解も大好きで、買ってきた機械はまず分解して、組み立てて遊んでから、使っていました。
この辺の遊びがかなり役立っています。
電子工学の知識がなくては、新しい装置を作り出せません。
世界中の人々ができないことを私だけができるのも、この辺りの知識のお蔭です。
法律の知識
他の知識は理系のものばかりだったので、最後に法律が出てきて驚いたかもしれません。
しかしながら、法律は一番くらいに大事です。
なぜなら世の中で何かをしようと思うと、かならず社会のルールに従わなくてはいけないからです。
これは、必ず従わなくてはならない法律と、人として合わせなくてはいけないモラルに分けられますが、法律を破ることは許されません。
新しい装置を作ろうとすると、色々な法律が引っかかってきます。
作ること自体が簡単でも、法律に違反するので、わざわざ合法な複雑な仕組みを使わなくてはならないこともあります。
発明の母は、発想力だとか努力だとか言われていますが、これだけでは発明品は生まれません。
法律というものに従わなくては発明品は世に生まれることを許されないのです。
そういった意味で法律は発明の父かもしれませんね。
日本国内で実施する以上、国内の法律は厳守して作り上げるのは当たり前です。
風船宇宙撮影を行うに当たって、かなり広い範囲の法律が絡んできます。
法律を守った装置を作り上げるためには、広い法律の知識が必要になってきます。
こうやって列挙してみるとなんだか凄そうな気もしますが、凄そうかどうかはどうでもよく、結局のところ好きで身に着けた知識が一番役立つ知識です。
好きなことをやりたいと、そのために知識が必要になる、やっていると好きな事に通じるから、その知識を身に着けるのが好きになる、というのが勉強のもっとも素直で効率的で、あるべき姿なのではないかと思います。
私は学校という仕組みに馴染めませんでしたが、思い直してみると勉強が嫌いではなかったのかもしれません。
学生さんには、学校の成績などではなく、ずっと生きていくに当たって本当に役に立つ知識を身に着けて欲しいと思っています。