スペースバルーンを実施したいというご要望を沢山いただくようになりました。私の活動を広く知っていただけてとても嬉しいのですが、反面、簡単で気軽な宇宙開発である点を強調され報道されてしまっているので、安全に関する配慮などが伝わりきっていないようです。
空に飛ばすためには、様々な配慮しなくてはなりません。安全な装置を作らないと人を殺傷することが出来ます。そのような可能性のあるものを飛ばすことを忘れないで欲しいのです。挑戦する気持ちはとても大切ではありますが、勢いだけで実施して誰かを傷付けたりしてはならないのです。誰かを不幸にするようなことはあってはなりません。
さて今回は、初めて実施したいという方が安全に実施できる場所について解説したいと思います。
ズバリ安全な場所
スペースバルーンの打上げに挑戦する方が安全に実施することが出来る場所を以下の地図に示しました。
ズバリ! 最も安全性が高いのが、北海道の東端、根釧台地です。極めて人口密度が低く、不足の事態が生じたとしても事故になる可能性が日本国内で最も低い場所です。事故の確率は関東平野の100,000~50,000分の1。日本一安全なエリアです。
次に適切な場所が十勝平野と、北見網走近辺です。このエリアは根釧台地ほどではありませんが、人口密度が低く事故の可能性が低い地域です。事故の確率は関東平野の10,000分の1程度です。根釧台地よりは事故率が5~10倍高いですが、日本国内では安全な地域です。
北海道の地図しかない!? と感じられたかもしれません。その通りです。北海道だけです。以前琵琶湖の湖面に落とそうとしたことがあったのですが、琵琶湖が狭すぎたために中々難しいものでした。北海道以外他に実施するとしたら、交通量の少ない海です。ただし、海に落とすとしても、上空が飛行経路になっている場合には危険です。以下の【飛行機に対しても安全な場所】をお読みください。
私自身、やはり事故を起こした時が怖いですから、新型機の実験は必ず道東地区でしか実施していません。安全面や実験のしやすさを考えると、やはり北海道が適した場所なのです。
道東はいい所ですよ!
道東地区はとても遠いです。札幌から出発しても東京より時間がかかります。秘境のような場所もたくさんあります。人よりひつじや牛の数の方が多い事もしばしばです。しかし、逆に考えてみてはいかがでしょうか。バルーン打上げのついでに、北海道の大自然を体感してみる。これもまた素晴らしい体験です。
以下の写真は打上げの時に行った北海道帯広、十勝平野です。見渡す限りの農地、まさにwindowe XPの壁紙のような世界です。本州ではみる事が出来ないこんな世界に包まれる体験は宇宙と同様にすばらしいものです。
宇宙という非日常から離れる行為を行うために、北海道のような広大な場所から実施するのも、何か意味があるように感じます。風の音や水のせせらぎ、土の匂いを嗅ぐために道東地区にいらしてみてはいかがでしょうか。
そんなわけで、バルーンの打上は是非北海道で! と強くお勧めします。
飛行機に対しても安全な場所
さて、理屈の小難しいお話に戻るのですが、航空機に対して日本で最も安全な場所は北海道の東側です。
航空法の申請を出すことで、バルーンの飛行の許認可が降ります。ただ、申請をすることで飛行機との事故が起こらない訳ではありません。
申請を行うことで、バルーンの飛行経路を航空情報として発行されるのですが、航空情報を各航空会社がパイロットに通達するかどうかは航空会社の判断に任されます。持って回った表現ですが、単刀直入に説明すると、日本の民間航空会社(JAL,ANA)に関して言えば、スペースバルーンの飛行経路はパイロットに通達されていません。これは現場のパイロットから教えてもらいました。
ですので、申請を出したからと言って、航空機がバルーンを避けてくれることはないのです。それに、パイロット視点からの意見では、スペースバルーンのような小型の気球を視認することはほぼ不可能で、回避も不可能とのことでした。つまり、ぶつかる可能性は大いにあるということです。なぜパイロットに通達されないのかというと、これは各航空会社が決めていることなのではっきりとした理由は分かりません。
申請してもパイロットに伝わらないのであれば、申請を出しても意味がないのではないか?という疑問が沸きますが、これは違います。申請は法的に必要なことです。絶対にしなくてはなりません。
スペースバルーンが航空機に対して害がない訳ではありません。時速800km近くで飛ぶ航空機に接触すれば旅客機を破壊しますし(このことはバードストライクから明らか)、エンジンに吸い込まれれば墜落することもあり得ます。
飛行機を落とした場合、その責任は私法で争われる事柄ではありますが、当然スペースバルーンを打上げた人にも十分な責任がありますので、数百億円程度の損害賠償を請求されることになり得ます。社会的にも悲劇的な事故となることでしょう。
このようなことを避けるために、スペースバルーンの実施者はどうすればよいか。それは、航空機の存在しない時間帯にバルーンの打上げを実施すればよいのです。航空機がいない以上、航空機に接触することは有り得ません。(ただし軍用機も飛んでいるので、それも避ける必要はあります)
とは言え、日本国内、一日中ひっきりなしに航空機が飛び回っています。この図を見る限り、本州・四国・九州で打上げをするのは非常に危険であることを分かっていただけることでしょう。
飛行機のいない空域はどこか地図を見て下さい。やはり北海道の東側なのです。
他にあるとしたら、沖縄県の石垣島の東側です。東向きに流される風が吹いている日であれば、石垣島でも実施できることでしょう。
エンジンに吸引されても飛行機を墜落しない装置を作り、落下しても無害な装置を実験を繰り返すことで作成しない限り、北海道東端と石垣島以外の地域は非常にリスキーです。
初めて飛行させる場合、どこに飛んで行くのか調整することが難しいです。予定していない方角に飛んで行くこともあるでしょう。そうなった時に航空機の飛行経路に侵入してしまうかもしれません。空港に侵入することも十分あり得ます。こうなると、色々怖いです。
ですので、初めて実施する時には飛行機が日本一少ない北海道東側で実施することをおすすめしているのです。
飛ばしてはいけない場所
法律上バルーンの飛行をさせてはいけないエリアもあります。 このエリアは落下させてもいけません。飛行予測が出来ずに、落下させてしまうと逮捕されることもあり得ます。これは大事なことなので、しっかりと調べて下さいね。
詳しくは別記事にしておりますので、こちらをご参考ください。
法律で飛行が禁止されている空域に侵入した場合、罰せられます。また空域のみならず、空港等に落下し運行業務を阻害した場合には損害賠償等も請求されることになります。結構重大なことになってしまいます。
スペースバルーンは人が乗っていないので、飛行予測が極めて重要です。しかしながら、初めて実施する場合に高い精度での予測は難しいのです。海外では飛行予測プログラムなどもあるようですが、日本は気象が安定しない場所なので見当はずれのことも良くあります。あまり当てになりません。
事件に発展しないようにするためにもやはり、北海道の東側地区で実施するのが理想的なのです。
ぜひ北海道です!
関東平野で打上げたいのだけど・・・
関東平野で実施したいというご質問が最も多いのですが、関東平野は世界で最も事故率が高い場所ですので、非常に危険です。落下地点としても最悪ですし、飛ぶ航空機の数も尋常ではありません。自衛隊・米軍の航空機も飛び回っています。
安全な北海道までお越し頂き実験してください。まだ一度も飛ばしたことがない装置を関東平野で飛ばすという行為は、そこに住む人々の人命を無視した行為です。
尤も、北海道で実施するに場合であっても、関東平野より人口密度が低いと言えどもそこに住む人々がいます。飛ばす前にたくさん実験をして安全性を確かめて下さいね。それが北海道に住む人々の平穏のためにとても重要な事柄です。空から突然凶器が降って来るなんてことはしてはいけません。
事故を起こした場合のおおよその損害
バルーンの落下による事故が発生した場合、どの程度の損害が発生するのか、おおよそで記しておきます。
工場 不審物を発見し操業を停止した場合 数千万円~数億円/日
空港 滑走路を封鎖した場合 数百万~数千万円
電車 線路上に落下し運転を停止した場合 数百万~数千万円
自動車 事故を誘発した場合 数十万円~数億円
民家 屋根を破壊した場合 数百万円
対人 後遺症を与えた場合 数千万円
このように、個人レベルで支払える賠償額ではありません。かなりやばい感じがしますね。
無論、司法で争われて決まる内容ではありますが、訴訟額が膨大なものになるので、訴訟そのものにも数百万以上の費用がかり、数年争うものとなるでしょう。これはあくまで民事の損害賠償であり、この他に刑事罰も加わります。前科や禁固刑も追加されます。当然のことですが、このような行為で発生した賠償金の場合は、自己破産等することはできませんので、一生をかけて償わなくてはなりません。だからこそ保険に加入することを勧めているのです。
北海道はインフラの密度が日本一低く、かつ道東地区に関しては工場などの密度も極めて低いです。このことからも道東地区が理想的であることがお分かり頂けるかと思います。
北海道はいいところですよ!
道東、帯広といえば、やはり豚丼です。牛丼屋で売っている豚丼とは違いますよ。みりんと醤油のたれがしみ込んだ、炭火で焼いた豚肉です。これがとてもおいしいのです。
どうです? おいしそうでしょ? 成功の暁に食べる豚丼は格別です!
そして、六花亭の賞味期限2時間、帯広でしか食べられない、サクサクパイも最高です。北海道には美味しいものが沢山あります。
牛乳に、ジンギスカンにお寿司に、カニ、海産物や、トウモロコシやアスパラ、夕張メロン。
打上げの時には風の調子が合わずに、何日間も待たされることもしばしばです。しかし、なぜ急ぐ必要があるのでしょう。
一日にとれる食事の量は限られていますから、長い時間北海道に滞在できれば、たくさん食べられるのです。
ゆっくりと、楽しく道東地区で打上げ、北海道にいらしてください!
4件のコメント
岩谷さん、はじめまして。
今度、風船の打ち上げを真剣に考えており、過去のブログも含めて全ページを拝読させていただきました。貴重な情報をUPしていただきありがとうございます!
現状解決できない、大きな疑問が2つあるので、お教えいただけますでしょうか。
一つは機体の流される距離です。根釧台地に落とそうと思っていますが、流される距離が不明なため、打ち上げポイントで迷っています。7月頃打ち上げの予定です。
2つ目は、VX-8DのGPSは、どの程度までなら距離が離れても位置情報を追跡できましたか?
経験則からお教えいただければ幸いです!
Hirokoさま
はじめまして。コメント頂き、そしてブログを見て頂きありがとうございます。
落下地点に関してのご質問を多数受けておりますので、近日中に記事にして配信したいと思います。気象庁の打上げしているラジオゾンデの飛行軌跡予測などを行っている企業さまもいらっしゃるようなので、これはある程度参考になります。が、結局は自身で予測プログラムを作り、軌跡予測を行わなくてはなりません。
VX-8Dはアマチュア無線を使用していますので、かなりかなり遠くまで拾うことができます。水平距離で100km程度であれば問題なく拾えます。ただ、場所によっては電波の谷間になっていて行方不明になることもあり得ます。無線機も事前に様々な可能性を考慮した上で実験をする必要があります。
岩谷様、ご返信をありがとうございました!
ラジオゾンデの軌跡ページを見つけ、大変に参考になりました!
最後にもう一つだけ参考としてお教えいただけますでしょうか。
6月頃に岩谷さんが打ち上げられたふうせん宇宙の機材は、およそ
何kmくらい東に流されていますか?地域や時間、その日の風によって
大きく変わることでしょうが、だいたいの経験則で結構です。
因みに私は風の弱い6月頃の早朝に打ち上げれば、50kmくらい東側に
着地するかなと予測をしています。
Hirokoさま
風は日によって大きく変わります。6月のある日東に80km流れていたとして、次の日が同じになることの方が珍しいです。次の日は北側に60kmになっていたりします。
弱い日であれば30kmも離れていない場所に落ちたりもします。が、方角がまちまちです。適当に実施すると事故を起こす可能性もありますので、軽いものから実験をしていくと良いです。軽くて脆くて柔らかいものであれば人や物を傷付けにくいです。最初は可能な限り装置を軽く制作することを目標にしてみて下さい。
初期の私の装置は100gをきるものばかりでした。