新しい計測装置を追加した39号機。
無人機搭載装置の検証実験のための新型機でした。
39号機を打上げたのは2014年6月のことです。
一年で最も風の弱い、無風状態の日を選んでの実験でした。
これほど条件の良い日は他にないといえるほど理想的な日程の打上です。
まず失敗は有り得ないでしょう。
絶対に失敗することはないと、かなり余裕があったので、普段使用しない15mの超大型バルーンを使用することに。
このバルーンであれば40000mは余裕で上がります。
新しい計測装置で40000mまでの環境を測ってしまいたい、新しいカメラでこれまでにない映像を撮影したい、と色々と欲が出ました。
打上準備
39号機打上のため、いつも打上している地点に向かいます。
道具を広げてバルーンを作ります。
膨らませたバルーン。
この時点でかなり大きいですが、ここからさらに300倍以上大きくなることが出来る巨大風船です。
成層圏飛行機の共同開発者の研究室の先輩です。
風船を係留して、装置を設定。
レンズのクリーニングをして、いざ打上です。
打上・そして空に消えて行った
準備万端でいざ打上です。
3・2・1 リフトオフ。
風船は空高く上がっていきました。
点になって見えなくなって・・・
空に消えていきました。
39号機に使用したバルーンはとても大型だったので、打上後延々と目で追いかけ続けることができました。
肉眼で20000mくらいまで、双眼鏡を使えば30000mくらいまで見えるのではないでしょうか。
落下地点
打上後、道具をたたんで落下を待ちます。
39号機は落下するとGPS装置が作動する仕掛けになっているので、通常飛行時はどこにいるか分かりません。
(飛行時の追跡も出来ますが、今回は搭載していません)
この落下までの時間がとてももどかしいです。
とはいえ、この打ち上げ日は日本で1年間で最も風の弱い日です。
ロストなんてありえません。
落下予測地点は十勝平野のど真ん中。
なおさら安心です。
打上地点とほぼ同じ場所に落ちてくるはずです。
打上地点近辺で昼寝でもしながら待っていれば良いんです。
のんびりしていました。
不穏な兆候
待つこと180分。
計算上すでに落ちてくる時間なのに落下してきません。
信号が来ません。
どうしたことでしょう。
おかしいです。
少しずつ不安になっていきます。
待つこと240分。
ようやく落下後信号が来ました。
落下地点は・・・
十勝平野の西側の山の中です・・・
なぜ、こんなところに?
この日は無風のはずです。
こんなところに落ちるはずはないんです。
最近では風の予測に大きなずれが出ることは一度もありませんでした。
ほぼ正確に読み切り、予定した場所に落下させることができるようになっていたはずでした。
しかし、この日は落下予測と40kmもずれがあります。
これまでの経験上、到底有り得ない事が起こってしまいました。
風のない日に40kmもズレる。
これは考えられないことでした。
原因の推測と今後の方針
考えられないことが起きました。
このことは単にイレギュラーと判断するのはあまりにも非科学的です。
原因が何か、たくさん検討しました。
そして導いた結論は、『高くまで上げたから』です。
通常風船宇宙撮影の実験では30km程度までしかバルーンを上げません。
しかし、この日は欲を出して40km超まで上げました。(後の計算で41km程度と判明)
思い返せば最高高度まで上がった24号機・同型機で別機能の23号機も30kmを遥かに超える高高度まで打上をした機体でした。
この2機も、私の予測を大きくずれた場所に落下していました。
過去の機体の予測と、実際の飛行経路の結果から調べるに、 私は33km程度までしか風の予測を正確に行うことができません。
それ以上の高度は予測できないのです。
というのも、私の飛行予測は気象庁のデータを基にしており、この気象庁のデータが33kmより上を計測していないからです。
33km超は空気もほとんどなく、風もない環境だと勝手に考えていましたが、これが大きな勘違いだったようです。
要するに33kmより上は何が起こるか想定も出来ないのです。
それなのに、まったく知らない環境へ適当に風船を飛ばしてしまった。
それが、予測もつかない場所に落下してしまった原因でした。
知らない環境であることを知らず、欲をだした実験をし、慢心していたのが失敗を招いたのです。
己の無知と、傲慢さを反省し、今後の実験にこの失敗を生かさなくてはなりません。
回収は困難
理由はどうであれ、39号機は山中に落下してしました。
なんとか回収できないものでしょうか・・・
地図でよってみると、
どうやら笹薮か森の中のようですが・・・
これは回収困難です。
場所は正確に分かっているので、登山すれば回収は間違いなくできることでしょう。
しかし、ヒグマが出るかもしれません。
危険な場所です。
考えた結果、数十万円の装置のために命を懸けるわけにはいきませんから、今回は39号機の回収は諦めました。
機会があれば回収しても良いかもしれませんが、それはいずれ先の話です。
行くなら雪解けの後の春先でしょう。
39号機の実験は、絶対に失敗することはないだろうと余裕で臨みましたが、想像もしていない大失敗でした。
今後はこの失敗から学び、新しい装置を開発していかなくてはなりません。