スペースバルーンが関わる法律

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スペースバルーンが関わる法律は多岐に渡ります。主な法律としては航空法と電波法です。他に民法や刑法、道路交通法その他諸々が絡んでくるので全て網羅すると膨大になり要点が分からなくなってしまいますので、大まかなところのみ説明いたします。

今回の内容はかなり細かいです。が、実施者にとって極めて重要な内容ですので、ぜひともご一読ください

スペースバルーンの打上げは日本国内ではかなりの制限を受けています。というのは日本には日本なりの理由があるので、このような細かい制限が設けられているのです。そのために、アメリカでは簡単に出来ることも、日本国内ではとても難しくなっています。合法的な打上げのためには、とてもたくさんの法律的な問題をクリアしなくてはいけません。

国内で実施した場合にどのような問題が起こり得るのか、理解した上で実施しないと大変なことになってしまいます。ですので、詳細まで記載させて頂きました。

なおこの記事の内容は2015年2月16日現在における法律について記載されております。法改正等ある可能性がありますこともご注意ください。

 

 1.航空法

航空法は航空機に対しての法律です。あくまで空を利用するものへの法律です。

申請は場所によって異なりますので近隣空港に問い合わせする必要があります。書類を提出することで航空法に関する許認可を受けることで実施することができます。

提出する書類の中で、装置概要を問われることもありますが、航空法的に問題なければ許認可が降ります。というのは、許認可を行う人間はあくまで航空法の観点からしか装置をみないのです。それに、他の法律に精通しているわけではないので、航空法的に問題がなければ許認可が降ります。

つまり、許認可が降りたからと言って、その装置は日本国内法に適合しているわけではないということに注意が必要です。

航空法の申請を行えば航空法には合法で空を飛行させることは出来ますが、航空法以外の法律を満たしていない場合法律違反になります。スペースバルーンは大きな影響を与える恐れがありますので、何かあった場合には警察が訪れ逮捕されます。前科が付きますので注意が必要です。

また、航空法の違反は刑事罰の対象ですので、やはり違反すると逮捕され、罰金、拘留、前科が与えられます

 

スペースバルーンが航空法で関係してくるのは、航空法99条の2209条の3です。209条の3で『玩具用のもの及びこれに類する構造のものを除く。』と記載されています。

つまり、おもちゃの風船であれば空に飛ばすときに許認可はいらないよ。と言っているのです。

風船であれば玩具であるから、勝手に飛ばしていいという理屈が成り立ちそうに思えますが、それは許されません。

なぜならば、飛ばす装置が玩具に類するものか、気球であるかについて判断するのは、実施者ではなく、許認可を行う人間であるからです。実施者が勝手に言い張っても、その理屈は通用しないのです。

勝手に飛ばすと航空法への違反となります。

航空法99条の2

何人も、航空交通管制圏、航空交通情報圏、高度変更禁止空域又は航空交通管制区内の特別管制空域における航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのあるロケットの打上げその他の行為(物件の設置及び植栽を除く。)で国土交通省令で定めるものをしてはならない。ただし、国土交通大臣が、当該行為について、航空機の飛行に影響を及ぼすおそれがないものであると認め、又は公益上必要やむを得ず、かつ、一時的なものであると認めて許可をした場合は、この限りでない。
2  前項の空域以外の空域における航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為(物件の設置及び植栽を除く。)で国土交通省令で定めるものをしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に通報しなければならない。

航空法209条の3

法第99条の2第1項 の航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為で国土交通省令で定めるものは、次の各号に掲げる行為とする。
(1)  ロケット、花火、ロックーンその他の物件を 法第99条の2第1項 の空域(当該空域が管制圏又は情報圏である場合にあつては、地表又は水面から150メートル以上の高さの空域及び進入表面、転移表面若しくは水平表面又は 法第56条第1項 の規定により国土交通大臣が指定した延長進入表面、円錐表面若しくは外側水平表面の上空の空域に限る。)に打ちあげること。
(2)  気球(玩具用のもの及びこれに類する構造のものを除く。)を前号の空域に放し、又は浮揚させること。
(3)  模型航空機を第1号の空域で飛行させること。
(4)  航空機の集団飛行を第1号の空域で行うこと。
(5)  ハンググライダー又はパラグライダーの飛行を第1号の空域で行うこと。
2   法第99条の2第1項 ただし書の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。
(1)  氏名、住所及び連絡場所
(2)  当該行為を行う目的
(3)  当該行為の内容並びに当該行為を行う日時及び場所
(4)  その他参考となる事項
第209条の4   法第99条の2第2項 の航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為で国土交通省令で定めるものは、次の各号に掲げる行為とする。
(1)  ロケット、花火、ロックーンその他の物件を 法第99条の2第2項 の空域のうち次に掲げる空域に打ちあげること。
イ  進入表面、転移表面若しくは水平表面又は 法第56条第1項 の規定により国土交通大臣が指定した延長進入表面、円錐表面若しくは外側水平表面の上空の空域
ロ  航空路内の地表又は水面から150メートル以上の高さの空域
ハ  地表又は水面から250メートル以上の高さの空域
(2)  気球(玩具用のもの及びこれに類する構造のものを除く。)を前号の空域に放し、又は浮揚させること。
(3)  模型航空機を第1号の空域で飛行させること。
(4)  航空機の集団飛行を第1号の空域で行うこと。
(5)  ハンググライダー又はパラグライダーの飛行を第1号イの空域で行うこと。
2  前項の行為を行おうとする者は、あらかじめ、前条第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を国土交通大臣に通報しなければならない。

 

 2.電波法

電波法は日本国内で電波を使う場合に守らなくてはならない法律です。

電波は目に見えず、遠くまで届いてしまうので、考えもなしに利用すると、とても広範囲に影響を与える恐れがあります。

そのため、電波法違反の罰則はとても重いのです。

合法である証

電波を使って通信する機械で、日本国内で利用することが許可されてる機械には技適マーク(技術基準適合証明マーク)がついています。

技適マークは以下のようなものです。

000201326

この技適マークは国内で利用されている電波を発するすべての機械に付けられています。付いていない無線機は存在しません。

もし、お手元に技適のない機械がありましたら、違法無線を知らずの間に利用していることになりますので、すぐに使用をやめて下さい。

ただし、注意しなくてはならないのは、技適マークが付いているからといって、必ず合法になるわけではないことです。

電波を発する機械は、その使用の範囲に基き許可を与えられています。使用の範囲外で利用すると、違法電波の利用に該当します。

例えば、スマートフォンは地上移動局ということで免許が与えられているので、スマホを上空で利用すると違法電波の利用にあたります

 

また、電波を発する機器を勝手に改造すると、技適が外れます

改造はボディを取り外したりアンテナを変えたりする外的な改造だけではなく、プログラムを入れたりアプリを入れたりする内的なことも改造に含まれますので、注意が必要です。

繰り返しになりますが、電波法は罰則が極めて重いです。そして取締りが厳しいです。事前に専門家に確認を必ずとることを強くおすすめします。

 

電波法についての詳細

電波法については過去に何度か詳細について記事にしましたので、以下をご参考ください。

スマホや携帯電話をスペースバルーンで使用することは違法です
スマートフォンや携帯電話の改造も法律で禁止されています
iPhoneはスペースバルーン用カメラとして使えるの?
電波について補足1 Apple製品の技適マーク
電波法についての補足2 紐をつけてスマートフォンを吊るす場合について
電波法についての補足3 海上での陸上移動局

 

 3.国際民間航空条約

国際民間航空条約(Convention on International Civil Aviation)とは別名シカゴ条約と呼ばれる、国際会議にて採択された条約です。日本国もこの国際条約を批准しているため、装置開発の際には国際民間航空条約に則った装置開発を行わなくてはなりません。

国際条約は国内法より優先度の高い(憲法>条約>法律)ものであると考え扱われるので、国際民間航空条約の順守も絶対です。

ふうせん宇宙撮影の装置は国際民間航空条約に則り、十分な設計がなされております。

国際民間航空条約の条文は非常に長く、該当箇所も多岐に渡り、設計者によって異なることもありうることから条文へのリンクを紹介することにします。

http://www.icao.int/publications/pages/doc7300.aspx

 

 4.民法

民法とは日本の私法の一般法について定めた法律です。

スペースバルーンを例に簡単に説明すると、装置を打上げて誰かに迷惑をかけてしまったり、危害を加えたり、損害を与えてしまった時に絡んでくる法律です。

与えた損害に関して、償いをしなくてはなりません。民法では基本的に金銭でのやり取りで償いをします。

例えば、落ちてきた装置を回収するために、工場の操業を1日停止させてしまったとしましょう。

1日停止させれば数千万円程度の損害が出ます。この損害の原因を作ったのは、工場に装置を落下させた人間ですから、実施者は数千万円を負担しなくてはなりません。

数台の絡む交通事故を引き起こした場合には数億円の損害賠償を請求されることもあり得ます。

何か起こった場合に、無い袖はふれない、では許されません。当然お金を払えば全て許されるわけではありませんが、お金という形で最低限の社会的な責任を果たす必要があるのです。

そのために、私はスペースバルーン専用の賠償責任保険を作ることで、最低限の責任を果たすことができる体制で実施しています。だからこそ、保険に加入することを強く勧めているのです。

賠償責任保険の加入の必要性

・保険に加入するためには

ちなみに、賠償の金額は自己破産することはできません。必ず支払わなくてはならないものです。

 

 5.刑法

刑法に違反する行為は犯罪になります。

国家権力が発動され、つまり、主に警察が訪れ、犯人が処罰されます。

罰を犯した償いとして、罰金刑や禁固刑、もしくはその両方が科せられます。

民事とは違い、刑事の場合には禁固刑、つまり刑務所に入れられるのが違いです。死刑も刑事罰に含まれますが、普通にスペースバルーンを実施していれば死刑はまずないでしょう。

先に記載した、航空法や電波法の違反もまた刑法に含まれます。

刑法に違反すると、前科が付き、犯罪者データベースに記載され、大きく社会的信用を失います

刑法における償いは、先に述べた民事に関する償いとは完全に別物です。

刑事罰でも罰金刑が言い渡された場合には、民事で争われた金額の他に支払わなくてはなりません。

刑事罰で科せられる罰金は民事と違い支払わないことはできますが、代わりに労役といわれる、強制的な労働を課せられます。リアルな話、例えば200万の罰金の場合、400日間刑務所で労働させられます。

 

 6.その他気を付けたいこと

様々な法律が絡んでいるために、大まかな内容だけに限定しまとめましたが、他にも気を付けなくてはならない事柄が沢山あります。例えば・・・

バルーンに搭載する装置や、利用する装置に危険物に該当するものはありませんか? 危険物取扱法などもチェックしてください。

また、ちょっとした化学的・もしくは機械的仕組みが銃刀法等に違反することもあります。

物品の移動に関して制限が加えられていませんか? トンネル内などへの持込み禁止の物品もあります。

 

風船を空に放っているだけと捉えられがちですが、国内で実施した場合にどのような問題が起こり得るのか、理解した上で実施しないと大変なことになってしまいます

日本には日本の事情があるので、このような法律になっています。なんとなく飛ばすのではなく、法律を守り、しっかりとリスクを管理して実施しなくてはなりません。

スペースバルーンに関する法律はかなり多岐に渡っていますので、実施の際には法律の専門家に相談のうえ実施してくださいね。弁護士さんにご相談することをおすすめします。

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About Author

私は日本人で初めて、独力で宇宙開発を成功させました。私の行っている風船宇宙撮影を通して、より多くの人に、宇宙をもっと身近に、そして夢はすぐそこに広がっていることを実感してもらいたいと思っています。

4件のコメント

  1. 先日無線販売店に行ったところ、アマチュア無線を電波を出しながら(GPSで発見するため)空に放つことは、違法だと言われたのですが、これは違法では無いのですか?

    • こんにちは。
      コメントいただきありがとうございます。
      アマチュア無線は移動局であれば上空での運用は認められています(50W以下の局に限る)
      アマチュア無線とその従事者が離れて利用することに関しては様々意見のあるところですが、制御できる状態であれば可というのが通例のようです。
      法律において、通例というものが最も重要です。
      ちなみに東京大学が宇宙にある人工衛星からの通信にアマチュア無線を使用したことがあり、議論されたことがありました。
      無人の人工衛星からでしたが、これも制御できる状態であったので、問題ないとされました。
      バルーンの場合も運用体制によるものですので、一概に違法かどうかとは言い切れませんが、合法での利用は可能です。
      もしも疑問が残る場合には、総合通信局や総務省などから正式にご質問されることをお勧めいたします。

  2. 素早い対応ありがとうございます。
    因みにGPSでバルーンを探す際、電波を出しっぱなしにしなければいけないと思うのですが、方法はありますか?
    (電気屋に質問されました。)

    • 繰り返しになりますが、移動局であれば上空での運用は認められております。
      運用が認められているということは、電波を発信することは認められているということです。

      電気屋さんの認識で実施されるのであれば、それは危険だと思います。
      ご自身で正確な知識を持ったうえで実施してください。
      なぜならば、ご自身が実施した事柄でそれが社会的問題になったときに、「電気屋さんが言ったから・・・」では責任の所在が実施者にないからです。
      しかし社会は当然として実施者に責任を負うべきと迫ります。
      ですから、ご自身で正確な知識を持ったうえで実施してください。
      電気屋さんに限らず、このサイトに記載されている情報も同様です。
      総務省や総合通信局にお問い合わせの上、正しい知識と理解の上で実施してください。法律はロジカルです。

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